大島さんは鉛筆の消しゴムの部分でこめかみを何度か軽く押す。電話のベルが鳴りはじめるが、彼はそれを無視する。
「僕らはみんな、いろんな大事なものをうしないつづける」、ベルが鳴りやんだあとで彼は言う。「大事な機会や可能性や、取りかえしのつかない感情。それが生きることのひとつの意味だ。でも僕らの頭の中には、たぶん頭の中だと思うんだけど、そういうものを記憶としてとどめておくための小さな部屋がある。きっとこの図書館の書架みたいな部屋だろう。そして僕らは自分の心の正確なありかを知るために、その部屋のための検索カードをつくりつづけなくてはならない。掃除をしたり、空気を入れ換えたり、花の水をかえたりすることも必要だ。言い換えるなら、君は永遠に君自身の図書館の中で生きていくことになる」
先日の本田さんファンクラブイベントで、
本田バンドメンバーの皆さんの、
「青木さんに捧げる“JOY”」の演奏を聴いてから、
ずーっと心の中で、この文章がエンドレスリピートです。
「僕らはみんな、いろんな大事なものをうしないつづける。
大事な機会や可能性や、取りかえしのつかない感情。
それが生きることのひとつの意味だ。」
「でも僕らの頭の中には、
そういうものを記憶としてとどめておくための小さな部屋がある。」
「そして僕らは自分の心の正確なありかを知るために、
その部屋のための検索カードをつくりつづけなくてはならない。」
答えはないし、正しいか間違っているかも、きっとわからない。
でも自分なりの誠実さで、一生懸命さで、
その検索カードをつくりつづけなくてはならない。
その作業を続けねばならない。
「自分の心の正確なありかを知るために」。
一生をかけて。
いろんな試行錯誤をしながら、悩んだり迷ったりしながら。
ときには掃除をしたり、空気を入れ換えたり、花の水を入れ換えたりしながら。
自分自身の図書館の中で。。。
それにしても、記憶というのはかけがえのないものなんです。本当に。
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