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こまきのブログです。

好きなアルバム紹介13〜「WALTZ FOR DEBBY」(ビル・エヴァンス)

Waltz for Debby

Waltz for Debby

1961年6月25日、ニューヨークのクラブ、
ヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ録音です。


初めてビル・エヴァンスのピアノを聴きました。
感動しました。


ビル・エヴァンスのピアノは、これ以上はないというぐらい、
「神経質」と言ってもいいぐらいに繊細。ナイーブです。


外側へ向かって語りかけるというよりは・・・
自分の内へ、内へと向かって弾かれているようなそんなピアノです。
おそらくビル・エヴァンスという人は、自分の内側というものを
嫌というほど見つめ尽くしていたのではないかと思います。


彼のピアノを聴いていると、
「たぶんこの人は、ピアノを通して
『観客に向かって何かを語りかけよう』なんて
これっぽっちも思っていないんじゃないか」と思ってしまいます。
この人はひたすらに自分の内側に向かって、語りかけてる。
神経質なまでの「自己追求」の姿勢が、
ビル・エヴァンスのピアノからは感じられます。


・・・だけど、その音楽は私たちに向かって、とても確かに何かを語りかける。
この感触がとても不思議です。



とても静かに、とてもぎりぎりのところで弾かれているピアノだと思います。
たぶんこれが本当にジャストのバランスで、
ここよりほんの少しでもずれてはいけないのでしょう。
この世界は成立しないのでしょう。


でも決してぴりぴりとした張りつめた雰囲気ではなく、
たおやかな、柔らかい雰囲気の中で
その完璧なバランスが保たれているところが素晴らしいと思います。


自分の内側をひたすらに見つめて、見つめて、見つめて。。。
そういう作業の中から紡ぎ出されるビル・エヴァンスのピアノの音は・・・
本当に美しい。たとえようもなく美しいです。


きめ細やかな、ほのかに温かい、ほのかに優しい、
なめらかな水のような感触のピアノ。
悲しく優しく美しく微笑むようなピアノ。


そのピアノはひしひしと、人の心の深いところを熱く静かに打ちます。
聴いていると涙が出そうです。


この人は、すごく苦しかっただろうなあ。孤独だっただろうなぁ。
(私が勝手にそう感じるだけだけど)
そういう孤独の淵から紡ぎ出される美しい音楽に、感動してしまいます。
ビル・エヴァンスの音楽に対する「愛」もすごく強く感じます。
彼にとって音楽というものは、とても切実なものだったのでしょう。


ビル・エヴァンスのピアノをじっと聴いていると、
彼のピアノの中にある、あたたかい湖みたいな優しさに
自分の心がふっと触れるときがあります。
そういう時、心がきゅっとなって泣きそうになってしまいます。



スコット・ラファロのベースも素晴らしいです。
彼のベースはふくよかで温かく、優しいです。
この人のベースには、ビル・エヴァンスの孤独を受け止めて包み込む
度量、包容力があります。


「君(ビル・エヴァンス)の事はよくわかってるからさ」
という感じのベースプレイです。
「気難しい男のよき理解者」という感じのベース。
音楽を通じての、ピアノとベースの魂の会話。


スコット・ラファロのベースがなかったら、
このビル・エヴァンスの信じられないぐらい美しいピアノも、
ただの「孤独な男のひとりごと」としてしか
私たちの心には届いてこなかったかもしれません。


スコット・ラファロのベースは、
ビル・エヴァンスがひたすらに自分自身の内側に向かって語りかけているお話が、
彼の演奏を聴いている“私たちに対しても有効なお話”になり得る為の
橋渡しをしてくれているような、そんな気がします。


しかし、ビル・エヴァンスと最高のコンビネーションを見せたこのベーシストは、
このアルバム「WALTZ FOR DEBBY」に収録されている
このライブの10日後に、交通事故でこの世を去ります。
はかないなぁ。。



最初にも書いたように、このアルバムはライブ録音です。
ライブハウスの中の人々のざわめき、
食器のかちゃかちゃと触れ合う音も、そっくりそのまま聞こえてきます。
これがまたいいんですよね。
「当時のライブハウスの空間を、まるごと味わえる」ような感じで。


観客の拍手は親しみがこもっていて、温かいです。
拍手をしている人たちの表情が見えて来そうです。
「すごいものを誉め讃える」という感じの拍手ではなく、
このピアノを、このライブの空間を「親しみを持って愛している」感じの拍手です。
拍手でも、こんなに気持ちが表現できるものなんだな。
私も自分の大好きなアーティストに、こんな拍手を送ってみたいです。



このアルバム「WALTZ FOR DEBBY」は、
人というものに、音楽というものに、静かに深く感動する一枚です。



本当に素晴らしい音楽に心の底から感動する時、
私はいつも最後に
「人っていいな。人間って素晴らしいな。」と思います。
音楽を通して「人間」というものに感動する。


それも、音楽というものがこの世に存在する、意味のひとつではないでしょうか。