児童文学作家の灰谷健次郎さんが、
11月23日に食道がんの為、お亡くなりになりました。
72歳でした。
とても残念です。
前にもこのブログで少し書いたことがあるのですが、
灰谷さんは、私が村上春樹さんに出会う前に、
最も心の支えとしていた作家でした。
特に大学時代に、灰谷さんの本を、
本当に熱心に、熱い気持ちでたくさん読みました。
灰谷さんの文章は、私の心の一部を、確実に作ったと思います。
心の師匠といえるような存在でした。
キヨシ君に、おまえは得手勝手な人間やと叱られたけれど、ほんとに得手勝手な人間になれたら、人間ちゅうもんはきらくなもんやな・・・・・・と、ふうちゃんは思った。
いい人ほど勝手な人間になれないから、つらくて苦しいのや、人間が動物とちがうところは、他人の痛みを、自分の痛みのように感じてしまうところなんや。ひょっとすれば、いい人というのは、自分のほかに、どれだけ、自分以外の人間が住んでいるかということで決まるのやないやろかと、ふうちゃんは海を見ているゴロちゃんやキヨシ少年を見て思った。
(灰谷健次郎著「太陽の子」より)
「けどもな。心の目はものを見るためにあるわけじゃない」
「なにを見るため?」
「心の目は、人の心を見るのが、いちばんの仕事やな」
「・・・・・・・・」
「あの人は今、顔では笑っているけれど、ほんとうはつらいことや悲しいことがあって、泣きたいような気持ちでいるなと見破るのは心の目ェの仕事じゃな。怒っているようなふりをしているが、ほんとうはうれしくて仕方がないというのを見破るのも心の目や」
倫太郎の目に光が増した。
「心の目をひらいてない人は、そんな、ほんとうの心が読めんから、人からも相手にされんし友だちもなかなかできん」
倫太郎はなにか探るような目になっている。
「人間はどんなことをいっても、なにをしても、それはみな、心が、そうしているのだから、その心の方を読まんとあかん」
「・・・・・・・・」
「おまえは今、どうしたら、それができるのかと、じいちゃんに心できいているやろ」
倫太郎はうなずいた。
「おまえが目を閉じて、じいちゃんを見よう見ようと努めたとき、おまえは他のことを考えていたか」
「ううん」
「おまえはいっしょうけんめい、じいちゃんを見ようとしたな」
「うん」
「人と接するときは、それと同じにすればよい。少し人と話すときでも、ちょっとのやりとりでも、おまえの方は、おまえの心を全部、心の目ェをみんなその人に向けんとならん。少しのことなら、少しの心を向けるとよいなどと考えてはならん」
(灰谷健次郎著「天の瞳」〜幼年編Ⅰより)
「見えんところをいつも見ている人間はしっかり者で人に頼りにされる。見えるところだけ見て、見えないところを見詰めることのできない人間は、だらしのない人間で人には好かれることはない。」
(灰谷健次郎著「天の瞳」〜幼年編Ⅰより)
「おまえはおまえを大事にせにゃいかんな。おまえはこの世にひとりしかおらん」
(灰谷健次郎著「天の瞳」〜幼年編Ⅰより)
「じいちゃんがお寺を建てたとする。それがいい仕事だと、お寺にお参りに来る人は、その普請を見て、結構なものを見せていただいて心が安らぎます、とお礼をいう。仕事は深ければ深いほど、いい仕事であればあるほど、人の心に満足と豊かさを与える。人を愛するのと同じことじゃ。ひとりの人間が愛する相手は限りがあるが、仕事を通して人を愛すると、その愛は無限に広がる。そうして生きてはじめて、人は、神さまからもろうた命を、生き切った、といえるのじゃ」
(灰谷健次郎著「天の瞳」〜幼年編Ⅱより)
「じいちゃんは、いろんな人から、いろんなことを教わって仕事をしてきたやろ。仕事をしながら、また勉強して、また違う仕事がでけた。すると、また勉強せなあかん。仕事をする。勉強をする。そのくり返しやったなあ。ずっと、ものを学ばせてもろうて、それがありがたいと、今さら思うのや」
しあわせだというじいちゃんの顔を、倫太郎はじっと見た。
「倫太郎。学ぶという字を、下から見ると、子があって、次に冠で、チョボふたつ、ハネひとつとあるな。チョボふたつ、ハネひとつは、見る、聞く、言う、で、その冠をかぶった子、というのが『学』のほんとうの意味や。おまえがじいちゃんの孫なら、死ぬまで学べ。ええか」
倫太郎はあごを引き、力をこめ
「うん」
といった。
(灰谷健次郎著「天の瞳」〜幼年編Ⅱより)
灰谷さんは、波乱万丈の人生を送ってこられた方でした。
灰谷さんは、しあわせでしたか。
その問い掛けだけが、いま自分の心の中に残ります。
私に、子どものすばらしさと、いのちの大切さと、優しさの意味を
たくさん教えてくれた灰谷さん。
本当にありがとうございました。
ゆっくり休んでくださいね。
私も死ぬまで学び続けたいと思います。
☆2006/5/12の日記〜好きな本紹介9「少女の器」(灰谷健次郎)
http://d.hatena.ne.jp/komaki-1325/20060512