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こまきのブログです。

好きな文章3〜「海辺のカフカ」(村上春樹)より

前回に引き続き、カフカくんとさくらの
サービスエリアでの会話です。



 僕は腕時計に目をやる。もう5時半になっている。「そろそろ戻ったほうがいいんじゃないかな?」
 「うん、そうだね。行こう」と彼女は言う。でも立ちあがる気配はない。
 「ところで、ここはいったいどこなんだろう?」と僕はたずねる。
 「さあ、どこかしらね」と彼女は言う。首をのばしてあたりをぐるりと見まわす。耳の一対のイヤリングが熟れた果実のようにゆらゆらと不安定に揺れる。
 「私にもよくわからないな。時間的にいって、たぶん倉敷のあたりじゃないかという気はするけれど、でもべつにどこだってかまわないわよ。高速道路のサービスエリアなんて、結局はただの通り過ぎる地点じゃない。こっちから、こっちに」、彼女は右手の人差し指と左手の人差し指を空中に立てる。そのあいだには30センチほどの距離がある。
 「場所の名前なんてどうだっていいんだよ。トイレと食事。蛍光灯とプラスチックの椅子。まずいコーヒー。いちごジャムのサンドイッチ。そんなものに意味はないよ。なんに意味があるかといえば、私たちがどこから来て、どこに行こうとしているかってことでしょう?ちがう?」
 僕はうなずく。僕はうなずく。僕はうなずく。


村上春樹著「海辺のカフカ(上巻)」より)

私もうなずいています。