「ゆっくり歩け、たくさん水を飲め」
（By 村上春樹著「アフターダーク」）
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「・・・・・・ねえ、少し歩かない？」とマリは言う。
「いいよ。歩こう。歩くのはいいことだ。ゆっくり歩け、たくさん水を飲め」
「何、それ？」
「僕の人生のモットーだ。ゆっくり歩け、たくさん水を飲め」
マリは彼の顔を見る。奇妙なモットーだ。
高橋は微笑んでマリを見る。「つまりさ、一度でも孤児になったものは、死ぬまで孤児なんだ。よく同じ夢を見る。僕は七歳で、また孤児になっている。ひとりぼっちで、頼れる大人はどこにもいない。時刻は夕方で、あたりは刻一刻と暗くなっていく。夜がすぐそこまで迫っている。いつも同じ夢だ。夢の中では、僕はいつも七歳に戻っている。そういうソフトウェアってさ、いったん汚染されると交換がきかなくなるんだね」
マリはただ黙っている。
「でもそういう面倒なことは、なるたけ考えないようにしているんだ」と高橋は言う。「いちいち考えても仕方ないことだからさ。今日から明日へと、ごく普通に生きていくしかない」
「たくさん歩いて、ゆっくり水を飲めばいいのね」
「そうじゃなくて」と彼は言う。「“ゆっくり”歩いて、“たくさん”水を飲むんだ」
「とくにどっちでもいいみたいだけど」
高橋はそれについて頭の中で真剣に検討する。「そうだな、そうかもしれない」
悪い事ばかりを考えているときりがないわけで。
そういう事ばかりを考えていると、心が暗い色に染まってしまって、
身動きが取れなくなってしまいます。
・・・と、頭ではわかっていても、くよくよ系の自分なので、
そういう暗い状態にはまり込んでしまう事がしょっちゅうあります。
いい加減なんとかしたいなこの性格・・・と思うのですが、
長年の性格はそう簡単に変わるものではありませんね。
生きていればいろいろあるし、いろんな種類のプレッシャーは容赦なくやってくる。
未来はきっと誰にとっても不安なものだと思うけれど、
でも、結局は自分にできる事を、
自分なりの誠実さで少しずつこなしていくしかないなあ、と
最近思うようになりました。
高橋くんの
「そういう面倒な事はなるたけ考えないようにしているんだ。
今日から明日へと、ごく普通に生きていくしかない。」
という言葉にはなんだかとても共感します。
「ゆっくり歩け、たくさん水を飲め」・・・
いろんなイメージがふくらむ言葉です。
最近よく心の中で繰り返しています。
大切な事を忘れないように。
自分を見失わないように。
